高橋和巳作。この方の本初めて読んだよ。
私の中高時代の国語担当は、「僕は、でもしか教師だから」が口癖の、半分ぐれた感じの先生でした。その先生は、夏休みの課題図書にいつも高橋和巳の著作を入れていました。漱石や鴎外などにまじってそれだけ何だか異質でした。家にも邪宗門とかいくつかあり、ちょっと開いたけどなんか気がのらず、読んだことなかったです。
これ、会社の図書室にあって、何となく手にとった。ロシアの悪霊の次は日本の悪霊でも、と思って。けっこう長いし、どうかなぁ?とちょっと心配だったけど、意外に面白かったです。小説を読む楽しさがありました。
推理小説っぽい展開で、読ませます。舞台が京都で、土地の描写や京都弁も面白いし。悪霊、でありますから結社が出てくる。首領はもと坊さん。破壊活動は祇園祭りのとき。で、死体は疎水に浮かぶのです。傲慢不遜な人物設定や内輪もめの部分など、ドストエフスキーの悪霊のエッセンスを織り込みつつ、独自の世界が展開されています。
登場人物の、刑事と犯人は同窓だった。片方は、学徒出陣して特攻くずれ。権力の走狗を選んで学問は捨てた。もう片方は、貧困のなかで苦学し卒業するも、破壊活動に足を踏み入れ転落する。この二人の対峙がストーリーの軸です。双方の、権力に対するひりひりとした痛みのまじった怒りや屈折した感情の描写が印象的です。戦後、価値観が大転換した時分における著者の思いが反映されているのでしょうか。
権力を愚弄する試みは、結局権力に愚弄されて終わり、後味はよろしくありません。欺瞞の全貌は読者の想像に任せています。
『意味を欲しがった時、その人間の堕落がはじまり失墜がはじまる。・・・人は虚空に自己の存在の意味を問うてしまうことの危険から身を避けるために、位階制を築き、命令の系譜を作り、服従の掟と造反への罰則を築いたのかもしれない。』
ああ、なるほど、そうですねぇ。
高橋和巳、享年39歳。存命なら今76歳ですね・・。
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