『私の名は赤』

オルハン・パムク作(1998年)。2012年に出た新訳を読みました。

これはなかなか大変な本です。構成も凝っており、じっくり読ませるものです。
秘密裏に細密画を制作するよう皇帝からの命を受けた絵師たちが登場します。お話は、絵師の一人が惨殺されるところから始まり、犯人探しが中心軸となっています。
時代設定は、オスマン帝国の黄金期が過ぎた16世紀後半。社会不安が増してきたイスタンブルの様子が活写されています。

「偶像崇拝が禁じられているため、絵画や塑像は奨励されない」という制約がまず理解しにくいですが、それがイスラムの文化です。目に映るそのままを描く西欧人のやり方は大罪です。イスラムの細密画は、「史書や物語を彩る装飾の一部」であり、一枚の絵として鑑賞されるものではありません。

細密画の発祥地ティムール朝の名人たちは、個性を見せまいとして細密画に署名をしなかったとあります。しかし、優れた技量を持つ絵師ほど、様式美を極めるだけでは芸術家として満足できないのではないか?傑作を生むためには、正道から外れた異端を無視できないのではないか? という「東洋と西洋の文化的相克」がこの本のテーマです。

しかし、肖像画も異端、遠近法も異端(――; イスラムの教えは、窮屈だなー。東洋ではあるけれども、古来あらゆるものを受容してきた日本とはだいぶスタイルが違います。
社会の退廃、といってもこの本に出てくるのは、絵画の飾られた珈琲店で噺家さんの小話を楽しむ、といった程度なのですが、そういう「不品行」を糺そうとする過激派が登場します。解説によると、聖典にのっとった原理主義的な政治体制への回帰を求める運動は、イスラム文化圏では昔から広く見られる現象なのだそうです。

オスマン帝国が舞台の本は初めてです。一読しただけではなかなか理解しきれないけれども、久々に本格的な小説を読んだ気がしました。
by itsumohappy  at 20:01 |   |  comment (0)  |  trackback (0)  |  page top ↑
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