『仔鹿物語』

マージョリー・キナン・ローリングズ作(1938年)。原題“The Yearling”。「一年仔」という意味で、ぴったりくる日本語はないそうです。

フロリダ北東部の湿原や原生林が広がる奥地に入植した一家のお話です。時代は、南北戦争から10年経った1871年頃。一家の主は、人間社会の軋轢を嫌って未開地に住むことを選び、自然との過酷な闘いのなかで、畑作、狩猟によりほぼ自給自足の生活を妻子と送っています。というと何かマッチョな感じですが、むしろ正反対の小柄で物静かな人物です。
厳しい暮らしで必要なのはあらゆる知恵です。害獣やハリケーンなどに悩まされるばかりでなく、開拓仲間の乱暴者たちともうまくわたり合わなければなりません。やはりどんな僻地に行っても人との関わりを全て絶つことはできません。

ジャーナリスト出身の作者は、自らフロリダの奥地に移住し、南北戦争前後からそこに住み着いた入植者の生き残りに取材しました。解説によればこの作品は、大恐慌のなかで下層階級が苦しい暮らしを強いられて(白人)アメリカ人のアイデンテイティが揺らいでいるところ、「尊敬すべき“古き良き開拓者”を描くことで(白人)アメリカ人を再構築した」という点で評価されたそうです。ただし、開拓者の原風景であっても、主として一家の、いわば閉じられた世界の話であって、社会問題までには言及されていません。当時、この地域では、貧しい白人よりもさらに貧しい黒人達も生活していたそうですが、彼らは作品に登場しません。

お話のテーマは、一人息子ジョディが、生活に奮闘する父母や隣人の姿を通して人生を知る、という成長物語です。自然の猛威、ユーモアあふれる父、動物との関わり等々の細やかな描写が読みどころでしょう。
by itsumohappy  at 08:55 |   |  comment (2)  |  trackback (0)  |  page top ↑
Comments

大草原の小さな家

作太郎さん
そうですね!気が付きませんでしたが、大草原の小さな家も開拓一家のお話でした。人間味溢れるあるじなど共通点があります。

仔鹿物語、全訳で読んでみると普通の、大人むけの小説です。
銃がないと生きていけない生活ですが、そんなところも米国の原点なんでしょうね。
by hiro 2014/07/21 18:03  URL [ 編集 ]

米国人の心性

『大草原の小さな家』と設定がにていますね。米国人は独立自営農民の姿にノスタルジックな思いをもっていますから、この手の物語が受けるのでしょう。
by 作 2014/07/20 00:34  URL [ 編集 ]
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